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NPOトリトン・アーツ・ネットワークの活動レポートです。詳細はhttp://www.triton-arts.net
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10月7日:古典四重奏団レクチャーコンサート plus#9                       

「ドヴォルザークの魅力」
                              
出演:古典四重奏団  特別出演:佐竹由美(ソプラノ)


 仲秋の名月のお株を奪った空模様も一変し、明ければ雲一つ無い日本晴れである。うららかな陽気の下、晴海のそこかしこで見物衆が群れを成している。何だろうと耳を傾けると、三味線、太鼓、チャンチキが聞きなれた三連譜を刻み、そのリズムの上へ、笛の音が、まるで風に煽られた薄紙の様に高低を繰り返のが聞こえる。おやおや、と思いながら見物衆の輪に加わると、中では「天狗連」と染め抜いた揃いの浴衣を片肌脱ぎにした老若男女が、その囃子に合わせ一心不乱と阿波踊りに興じている。「踊る阿房に見る阿房、同じあほなら踊らにゃ損、損」何となく後ろ髪を引かれる思いでトリトンスクエアへ急いだが、当たり前の様にその調子が耳に憑いて離れない。ちゃんかちゃんか、こんにちわ。ちゃんかちゃんか、先日はどうも。結局、「同じ阿房」を引き摺って会場に神輿を据えた。

 古典四重奏団を聴くのは二回目である。その嚆矢は去る七月「ゆふいん音楽祭」でバッハの『フーガの技法』であった。この時も、チェロの田崎さんが演奏前に彼の大曲を聴くに当ってのレクチャーをされていた。勿論演奏も然る事ながら、その口跡は軽妙にして、然し説得力溢れる話術が、お喋りを職業とする私には頗る興味が有ったし、又その気さくな御人柄に親炙させて頂けるのを楽しみに、モニターを志願させて貰った。

 四人の入場の後、間髪入れずドボルザークのスラブ舞曲第一集の第8番が演奏された。この曲は過去に私も練習したことがあるので馴染み深い。「ようこそ、古典四重奏団です」との田崎氏の開口一番は、噺家が出囃子にのって出てきたそれとそっくりである。四重奏団の面々を紹介の後、本題に入る。「このドボルザークという人は、生前から有名であり、それなりの地位もあった方です。ですから・・・女性やお金、貧困に喘いだ事実がないので、我々としては面白みがない」会場に笑いが起こる。それから専門家としての分析に入る訳だが、憎いほどお客の気持ちを掴む術に長けている。随所に散りばめられた「くすぐり」が聴衆を飽させることなく、寧ろ追い風となって益々その語り口を生き生きさせる。まるで全盛期の林家三平師が口演した『源平盛衰記』にさも似たり、といったら笑われるであろうか。

 プログラムと、田崎さんの「高座」が進んで行く。田崎さんのお喋りという「お囃子」に乗った古典四重奏団の演奏するドボルジャークから聞えてくるチェコ特有のリズムが、石川啄木の詩を、まるで彼の生地、岩手渋民村の訛りで聞いているような気がしてきた。その時、はっと気付いた。これが国民楽派の持つ底力なのだと。

 人は土地に生まれ、その土地に育まれる。その成長過程に於いてその産土独特の「気
質」が知らず知らすに身体の奥底に染み込んでいる。即ちそれは地方特有の民謡であったり、味覚であったりする訳だが、譬えその土地から離れようとも、その「気質」は不変であるし、時と共にそれは「郷愁」のへ変化するのは人情である。ドボルジャークにしてみれば祖国を離れ、遥か「新大陸」へと居を移したことにより、それが一層熟成され、名カルテット12番「アメリカ」と
いう曲に結びついたのだ、という事を、アメリカ土着の作曲家、S フォスターの美しい歌曲を引き合いに出し、音楽をも用いて口講指画と説得する古典四重奏団の「芸」には、正直脱帽であった。

 終演後、田崎さんから「どうも、師匠。御無沙汰いたしました」と声を掛けられた時、私は顔が真っ赤になる思いがした。この人が私と畑を異にした「芸人」であることを心から神様に感謝したことは云う迄もない。
by tritonmonitor | 2006-11-22 18:17 | レクチャー・セミナー
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