NPOトリトン・アーツ・ネットワークの活動レポートです。詳細はhttp://www.triton-arts.net
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5月7日 はじめのいっぽVol.5 ~ヴァイオリン&ピアノ編

5月の昼の色彩~「はじめのいっぽ」堀米&児玉デュオ 5月7日(水)

【報告】音楽ジャーナリスト 渡辺和 1階14列31  佃在住


 この数年、東京の音楽ファンのゴールデンウィークは、晴海のお隣、有楽町で開催されるようになった巨大音楽祭に明け暮れるのが定番となりつつある。そんなお祭り騒動が終わった翌日、それも平日水曜日の午前中から演奏会をやるなんて、トリトン・アーツ・ネットワークって主催者はなかなか勇気があることだ。

 連休明けなのに、これからがゴールデンウィーク本番みたいな五月晴れ。そんなことを思いながら運河沿いに自転車を走らせ、開演ギリギリに慌てて駆け込んだ第一生命ホールには、意外なことに、お客さんがずいぶんといらっしゃいます。1階はほぼ満員くらい。殆どが奥様たちで、その中に熟年男性がパラパラと混じっている。昼間の三越劇場に紛れ込んだような、ゆったりした空気だ。昨日までの東京国際フォーラムの、お祭りに尻を叩かれるような無理矢理の熱狂はどこへやら。やっと普通の日が帰ってきて、いつもの場所に、いつもの普通のお客さんがいる、って感じかしら。

 堀米と児玉桃が舞台に登場する。まずはモーツァルトK.378、全くモダンなピアノと、全くモダンなヴァイオリンのモーツァルトは、逆に新鮮に感じてしまうのだから時代とはオソロシイものだ。あくまでもメロディラインを大事にしたノンビリした音楽に、第1楽章の終わりで拍手が出ても、それはそれで良いんじゃない、という感じてしまいます。第2楽章はピアノが完全な主役とよく判る演奏。フィナーレではモダン楽器の響きの明快さと、ちょっと大げさになってしまうところとが共存した、興味深いデュオだった。

 こういう短めの演奏会では、演奏者のトークが常識になってきている。考えてみたら、堀米さんのお喋りを聞いた記憶はあまりない。「ステージでは演奏家は喋らない」という態度が常識だった最後の世代くらいなのかしら。意外にも、トークもふたりのデュオでした。

「11時半から弾くことはあまりなくて…」と照れくさそうに始まり、児玉とのデュオは4年間やってきたこと。本日弾くF-dur、A-dur、B-durの調性感の違い。続いて、ベートーヴェンの「ロンディーノ」と「春」第1楽章を弾きます、だって春ですから、と。決して達者な喋りとはいかないけれど、誠実そうな話しぶりは聴衆の空気に合っていて好感度は高いでしょう。この調性による色彩感や肌触りの違いの議論は、演奏者や一部のマニア的な聴衆にしてみれば当たり前の感覚なのだろうが、多くの聴衆はぼんやりと察している程度のことなのかもしれない。ここをもっと突っ込んで喋ってくれても良いのになぁ、と思いはするものの、そうすると昼間っから「お勉強」風なレクチャーになってしまうかもれない。このくらいの暗示で済ませるのが「はじめのいっぽ」、ということかしら。「春」は展開部にかけて極めて劇的で、一転した再現部の柔らかさが印象的だった。

 この演奏会の音楽的な白眉はメシアンの幻想曲だった。メシアンに感心が深い児玉桃が話をリードする。「オルガンの響き、リズム、この曲も最初が面白いリズム。色彩。」やっぱり先ほど堀米が語った調性による色彩感の違いに話は繋がっている。頭っからメシアン節で、インド風の歌とリズムが交代する音楽だ。とはいえ、所謂ゲンダイオンガク専門家の鋭さや、これ見よがしの音色変化の強調ではなく、あくまでもモダンピアノのふくよかな響きを大事にしながら、色を添えていくメシアンである。

 クライスラーの「中国の太鼓」で本プロは終了。ちょっと短いかな、と思ったら、フォーレの「子守歌」で濃厚だけど爽やかな味わいのデザート。ついでにもうひとつおまけに、「春」の短い第3楽章。これで演奏会はおしまいです。まだ12時半まで少し時間があるかしら。

 それにしても、1時間のコンサートの案配というのはなんとも微妙だ。もうちょっと食べたいなぁ、って腹八分目で終わらせるなんて、なかなか見事な案配ではある。聴衆も大食いコンテストに出そうな高校生じゃあないんだもの、これくらいがちょうど良いのかしら。

終わってガラス張りロビーに出てみれば、「新緑の5月の色彩」って演奏会の隠れテーマが、今度は耳じゃなくて目から飛び込んで来た。そう、ようやく5月なのだよ、大川河口はね。
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by tritonmonitor | 2008-05-22 14:34 | ライフサイクルコンサート
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