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NPOトリトン・アーツ・ネットワークの活動レポートです。詳細はhttp://www.triton-arts.net
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2005年5月19日:日本音楽集団第179回定期演奏会(名曲選シリーズⅡ)

【報告:須藤久貴/大学院生/2階C1列8番より報告】


人それぞれの語り方の違い、それが際立った演奏会であった。作曲家ひとりひとり、あるいはいくつもの邦楽器それぞれが固有の特性を保ちつつ、ひとつの演奏会という場において音楽を共有する。まるで京都の東本願寺の門前に掲げられている「バラバラでいっしょ」という看板のようである。
 音楽を聴くことはさまざまな価値観を知り、認め合うことだと言ってもいい。指揮をした田村拓男氏は、この日の日本音楽集団定期演奏会について、「日本の楽器が奏でるアジア友好へのメッセージ」(プログラム)であると述べている。朴範薫≪シナウイ≫は韓国音楽を日本楽器で語ったものであるし、伊福部昭の≪鬢多々良≫は平安時代の音楽を模したもので、起源は中国やインドにあると言われる。もちろん音楽はあくまで音楽だから、演奏を聴いて逐一「アジア友好」なんてことまで考える必要はないけれども、私は笙や篳篥(ひちりき)、琵琶の音色を聴くと、それが無条件に心地よいものと思え、直感的に自分が東洋の人間であることを悟るのである。クラシックを聴くとき、無意識のうちに居住まいを正さずにはいられないのとは違って、邦楽は気楽に聴ける。私はほとんど邦楽を知らない。それにもかかわらず距離感は近いのだ。

 座席はだいぶ埋まっている。舞台では指揮者のみがネクタイで、笙と篳篥の奏者が平安時代の烏帽子と貴族の格好、他は男性が羽織袴で女性が橙色の着物であった。
 初めの池辺晋一郎≪竹に同じく≫(1979)は竹からできた楽器の笛、笙、篳篥、龍笛、尺八、鳥笛のための曲。緑の生い茂る静かな竹林の中に迷い込んだように感じてしまう。面白いのは鳥笛で、まるで何羽もの鳥がさえずっているようだった。池辺氏本人も聴きにいらしていた。
 長沢勝俊≪筝四重奏曲≫(1968)は、筝三面と十七絃一面のためのクァルテット。二章に分かれているこの曲では、特に二章の幾度も繰り返されるテーマが心を打つ。控えめに、しかし何度も主題が戻ってくる。はかない幻影を見つめているような心地がした。
 朴範薫≪日本楽器によるシナウイ≫(2000)は派手な威勢のいい曲で、笛、尺八、三味線、琵琶、二十絃筝、十七絃、打楽器のために書かれている。音楽を知らなくても音の大きさ、リズムのよさで楽しめる作品だが、いかにも大衆受けしそうな曲という気もしないでもない。太鼓の三連打が印象的で、曲が終わっても耳から離れなかった。
 休憩を挟んで後半は伊福部昭の作品。まずは≪交響譚詩≫(1943)が演奏された。原曲はクラシックの管弦楽曲。秋岸寛久による編曲で、日本音楽集団版初演である。楽器は朴氏の曲とほぼ同じだが打楽器が少し違うのと、ここでは胡弓が加わっている。曲調は簡明で親しみやすい。分かりやすいからといって陳腐にはならない。胡弓の音色、筝のユニゾン、あるいは篳篥が吹きながら音程をずらしていくのが見事だったように思う。とはいえ、この日最後の曲目である郢曲≪鬢多々良≫を聴いたら、ずいぶん音の鳴りかたが変わったので驚いてしまった。つまり、もともと西洋楽器のために書かれた≪交響譚詩≫はどこか「翻訳調」な気がする。西洋音楽の語法で語っているためにしっくりこないのかもしれない(ドイツ語の韻文を日本語で読むときに原語の微妙なニュアンスが変わってしまうような違和感)。それがこの曲では、筝なら「筝」という楽器のために書かれた音という、ぴったりとした感じがいかにもする。
 ≪鬢多々良≫はひとりひとりが語るに語る。三人の筝、十七絃、それぞれひとりずつ語っていく。すると今度は、仕切り直して琵琶がしんみりと物語を始めるのだ。最後はトゥッティでなだれ込む。鼓、銅鑼のようだが音の高い打楽器が効果的に重なり合いつつ、ひたすら華やいでいる。それが突如やむ。空を断ち切るように笛が高らかに絶叫し、呼応した鼓が勢いよく「ポン!」と打って終わる。ぞくぞくするくらいかっこいい。
 後半の二曲はいずれも伊福部昭氏の作品だったが、拍手のときに御歳90歳の伊福部氏ご本人が、杖を支えにやっとの思いで立ち上がったのが、何とも感動的であった。二階席から見ていると、一階席中央で起立した伊福部氏の丸い背中が暖かくて、「ありがたい」という気持ちになってしまった。また、二階席には大勢の小学生の姿も見られたが、マナーのよさに驚いた。鳥笛の音や打楽器の音に敏感に反応し、彼ら若い聴衆は、飽きることなく音楽を楽しんでいる様子だった。
by tritonmonitor | 2005-06-17 14:00 | TAN's Amici コンサート
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