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NPOトリトン・アーツ・ネットワークの活動レポートです。詳細はhttp://www.triton-arts.net
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カントゥス・クァルテット《うたは時をこえ海をこえ》

3月13日(土)18:00開演
【報告:津下 祥子/音楽家/2F1列45番】


~Blowing the strong wind by Cantus String Quartet~



3月13日土曜日、久しぶりの晴れた暖かい陽気。先日11日には九州南部・奄美地方で今年全国初めての春一番が吹いたそうだ。春を告げるような力強い風に追い立てられて、休日のジョギングを楽しんでいた頃、思わぬ突然の知らせが届いた。コンサートのメールだ。ここにも追い風が吹いているのか、興味をそそられて会場に足を運んだ。

出演はカントゥス・クァルテット/Cantus String Quartet、全員がアメリカ音楽の地を踏んだ日本人メンバー。2005年に結成され、東京、横浜を中心に活動されているそうだ。プログラムはシューベルト弦楽四重奏曲第13番イ短調op.29 D.804「ロザムンデ」、アイヴス弦楽四重奏曲第1番ハ長調「救世軍より」、チャイコフスキー弦楽四重奏曲第2番ヘ長調op.22。時代と様式を越えた演目、まさに彼らがこのたびテーマする「うたは時をこえ海をこえ」といった内容だった。

東京ベイエリア__いわゆる都会の視覚的・聴覚的な刺激の中でクラシックのコンサートに足を運ぶことは、日々の生活では味わえない時間を体感することができる。ある種、現地へ行ったつもり時間旅行とか、自らの内面を解放するメンタルダンス、演奏家の巧みや表情を味わう…必ずしも専門的である必要はなく、何でもいい、リラックスして時間を楽しむコツを持つと面白い。今日もそれを知っているのか、客席は活気があり満席に近く、楽器ケースを持つ聴衆もちらほら。演奏会への期待が伺えて、楽しみになってきた。

1曲目、シューベルトは出だし本当に静かな音から始まった。会場を日常から引き離してしだいに演奏へ引き込んでいくかのように。クローバー畑に飛ぶ蜂の羽音も聴こえる様な、穏やかな音楽。第1楽章で織り成す穏やかさはとても内的であるが故に悲しみに対する嘆きも含まれていて、第2楽章では日々の幸せな生活を、第3楽章では人の町の暮らし、再び実感する悲しみ、第4楽章では演奏家の踊るような音楽を味わうことができた。

2曲目、アイヴスはアメリカ現代音楽のパイオニア的存在。軍楽隊でバンドマスターを務めた父親を持ち、エール大学でホレイショ・パーカーに作曲を師事、自身保険会社の経営者という経歴。学生時代に作曲された作品は、第1楽章の若々しく健全なフーガから始まる。何か志と理想の建築物を妄想させる堂々たる響き。第2楽章は日々の思考を、第3楽章でも賛美の色が濃く、アイルランド的な響きにアメリカの港を思い描いた。3拍子や夜を思わせる民俗的風景があり、第4楽章にはマーチやリズムなどにアメリカ的ナショナリズムを感じるフィナーレだった。素晴らしいのは、そういった音楽のキャラクターを見事に披露してくれたカントゥス・クァルテットだ。公演休憩中、私は高揚感に包まれていた。

3曲目、チャイコフスキー。弦楽器の湾曲したフォルムがとても似合う作曲家と私は勝手に思っている。弦楽器のことをよく知っていて、情熱的で、ベートーヴェンが仮に内臓をえぐるような音楽なら、彼の弦楽四重奏曲は肉体をえぐりつかむような表現を私は魅力に感じた。第1楽章では第1ヴァイオリンのソロが早速魅せる。旋律はオクターブで強調され、チェロの深い低音が幅広く豊かにしている。第2楽章では遠く転調して甘くフランス的な響きを、第3楽章冒頭ではっと目を覚まさせられてそれぞれの演奏家の存在に気づかされる。同じヴァイオリンでも第1Vn.の物集女さんと第2Vn.の梅原さんとではソロの音色が違う。勝手な例えで恐縮だが、同じストロベリーケーキでもショートケーキとミルフィーユの食感の違いのような。ヴィオラの大島さんは何時も存在しているペースメーカーで、チェロの森澤さんは絶対的な安心感を与えてくれているようだ。第1Vn.だけ若干離れたように見えるセッティングも4人の音楽作りの理由だろうか。第4楽章、たった4本の楽器がシンフォニーのような表現力でロシアを謡って締めくくられる。

アンコールにはグラズノフ作曲「5つのノヴェレット」より「ワルツ」が奏され、爽やかな印象の中コンサートの幕が閉じられた。

終演後ロビーでは活気に溢れた聴衆が4人の演奏家を取り囲んで演奏会の喜びを分かち合っていた。会場を後にする頃にはすっかり冬の冷たい空気に戻っていたが、春一番も近いという気分にさせてくれた一日だった。
by tritonmonitor | 2010-03-18 13:43 | SQWシリーズ
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