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NPOトリトン・アーツ・ネットワークの活動レポートです。詳細はhttp://www.triton-arts.net
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2005年10月12日(水):古典四重奏団バルトーク弦楽四重奏曲全曲演奏会-2

【報告:須藤久貴/大学院生/1階10列10番

2005年10月12日(水):古典四重奏団バルトーク弦楽四重奏曲全曲演奏会-2_d0046199_15242630.jpg内奥からの感情は、それを強調するよりもさりげなく語るほうが、返って際立つということがある。細部に気を留めなければうっかり聴き逃してしまうけれども、注意深く耳を澄ましていると、意外な創意や工夫に驚いてしまう。バルトークはわざとらしく強調したり、いかにもという素振りを見せないから、初めて聴く人は距離感を覚えるかもしれない。しかしながら、ゲームはルールを知れば必ず楽しめるものである。森に入り込んで踏み迷うことがあったとしても、地図とコンパスさえあれば、私たちはどこを歩いているかを知ることができるだろう。

 10月1日に開かれた古典四重奏団のレクチャーコンサートは、いわばバルトークの森を案内するコンパスであった。演奏を伴いながら、クロアチアの民謡がベートーヴェン≪田園≫に酷似していることを記したバルトークの論文の紹介に始まり、≪田園≫第2楽章の内声に出てくる水の流れのような音型を、バルトークの弦楽四重奏曲第6番第3楽章の中間部に照らし合わせてみたり、第4番第3楽章のヴァイオリンに「確実に鳥の声」(チェロの田崎瑞博さん)を聴き取ることができると解説された。自然描写的なモティーフだけではなく、バルトークには「宇宙」が広がっている。バッハの≪フーガの技法≫が「大宇宙」ならば、バルトークの第4番第2楽章は「小宇宙」、まるで「万華鏡の世界」だという(しかもバルトークの楽譜は厳密で偶然性の介在を許さないから難曲だという)。第5番第1楽章のコーダに出てくるカノンを「巨大なクロスワードパズル」と田崎さんは表現し、最後に第6番全体を「自己との対話」と位置付けた。全楽章とも冒頭に“Mesto“(悲しげに)と記された同一のモットーから音楽が始まるこの曲の特殊性を強調し、第4楽章はカノン風でありながら「しかし相手が歌い終わる前に重なり合い、一度も協和していないのに美しい」と田崎さんは述べられた。

 レクチャーでお話を聴いていると、彼らのバルトークに対する思いの深さが伝わってくる。だからといって、10月12日「バルトーク全曲演奏会第2回」での古典四重奏団は過度に熱くなったり、冷静さを失ったりはしなかった。変わったリズムをここぞとばかりに強調したり、作為的にわざとらしく弾いてみたりすることを巧妙に避けている。客席に挨拶するときも笑わない。しかし彼らの職人的な音楽家ぶりは落ち着いていて、逆に安心感を生むような気がする。

 弦楽四重奏曲第4番は、第3楽章に長いチェロのソロが出てくる。田崎さんはことさらに強く弾いたりはしないが、装飾音を和音のように重ねて弾くところに好みが現れていると思った。第4楽章のピチカートは、ときおり指板へ強く叩きつけるように弦をはじく部分があるが、第1ヴァイオリンの川原千真さんは、これを激しく打ち鳴らし、フレーズの切れ目ごとに右手を大きく円を描くように振り上げていた。

 第5番を聴いていると、極限まで速く弾こうとしているみたいで、まるでテープを二倍速で流しているくらい超人的な技だった。第5楽章はテンポが速まったことで逆に、大局的な曲の構造が見えやすくなり、各楽器ごとに分散された音が一つの糸となって半音階的進行を構成している骨組みが浮き上がってきた。そのまま突っ走っていくと思いきや、第2ヴァイオリンの花崎淳生さんがわざと、子供の下手なヴァイオリンみたいな調子で、バイエルに出てきそうな平板なメロディーをノン・ヴィブラートで弾き始めたから、油断しているとびっくりさせられてしまう。他方で、第2楽章のコラールは心を鎮め、敬虔な気持ちにさせるようだった。絶妙なバランスの和音の上に立ちながら、たゆたうように歌う川原さんのヴァイオリンがとても美しかった。

 第6番は同じモットーが楽章ごとに演奏されるから耳になじみやすい。ヴィオラの三輪真樹さんのソロは闇夜をそろそろと歩いているようで、これから進んでいく“Mesto“を先触れしているかのようだ。それでいて第2楽章の中間部での南国的な明るい光が射しこむと、チェロの高音の主題に合わせて、三輪さんはウクレレのようにピチカートの和音を勢いよくかき鳴らすのだ。楽章ごと同じ旋律が返ってくるたびに、鏡に映った自分の姿を見つめているみたいで、何だか痛々しい。第4楽章はまさに悲しみに溢れていて、殊に憂鬱になる。末尾に、ヴァイオリンが虚ろに和音を弾きながら、モットーの前半部分をなぞった旋律がチェロのピチカート和音で現れる。田崎さんは初めの和音を強くはじき、残りの音を弱々しく速めにはじいた。あたかも音の先には続きがあるみたいで、その余白の中に何か虚しさのようなものを感じてしまった。

 聴衆の反応も9月28日の第1回よりもよかったと思う。前半でも後半でも、何度も「ブラヴォー」といくつもの歓声が飛び、よく音楽を分かっている人が多くいらしていたという印象を持った。
by tritonmonitor | 2005-10-16 17:56 | SQWシリーズ
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